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「そのコンサートに、東野さんとお嬢さんも聴きに来てくれて、その・・・お嬢さんが、桜のピアノ、凄く気に入って・・・ピアノを教えてほしいんだって」
「私に?」
「はい」
香織さんは頷いて、隣に座る子供に視線を移した。つられて私も女の子に視線を移した。
外見は、小学3,4年、と言ったところだろうか?どちらかと言えばぽっちゃりとした顔立ちだ。
真っ白だが健康的な肌の色と血色の良い頬の色をして、真っ黒いまっすぐな肩までの髪を、後ろで無造作に束ねていた。
今時の、何処にでもいる、ごく普通の女の子のように見えたけど、真っ黒な目は落ち着きがなく、辺りを物珍しそうに見回し、そわそわと腕や足を動かしている。
落ち着きなく視線や手足を動かしているのは、大人の話に退屈しているからか、それとも大人の話に自分がついて行けないからか・・・・多分、両方だろう。
正直、子供は少し苦手だった。担当している都内や市内の音楽教室でも、子供相手のクラスは受け持っていなかった。私が受け持っているクラスは、例えばある程度弾ける子だったり、大人の人のクラスだったりだ。
落ち着きのない子供。いつもだったらそれだけで、教えるのは躊躇するだろう。でも、何故だろう?・・・その落ち着きのなさに、不思議と、嫌悪感は全く感じなかった。
香織さんは、更に言葉を続けた。
「もともと、近くの音楽教室でリトミックとピアノを習っていたのですが・・・あまり好きではないのか・・・上達しないというか・・不真面目だったんです。
ところが、先日の桜さんのコンサートを一緒に聴きに行ったところ・・・桜さんのピアノをとても気に入って・・この人に習いたい、と言いだして聞かなくなったんです」
そして、自分の同級生に私の幼馴染みがいる・・・というのを思い出して、憲一さんに相談してみた・・・という事だった。
「どうだ?桜?よかったら・・・教えてやってくれないか?」
言われて私は当惑した。
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