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「そのお友達のはるかちゃんは、幼稚園に入った時からのお友達なの!
毎日、はるかちゃんと幼稚園で遊んでるの!」
話はいつしか、ランドセルではなく、そのお友達の話になった。それでも話は終わらない。
「いつもね、私、はるかちゃんとコウ君とあこちゃんと、リョウ君と一緒に遊んでるの!
昨日はみんなで縄跳びしたんだ!
それでね!・・・」
私が呆れて黙っているのを、もしかしたら杏樹は、「真面目に話を聞いてくれている」と思ったのか、嬉しそうな顔のまま、話を続けている。
杏樹の話が一通り終わる頃は、時計の長針がゆうに半周、回った頃だった。しかもそれは、話が終わった、というより、杏樹自身が話し疲れて息をついたからだった。
聞いている方も疲れたが、話している杏樹も相当疲れたらしい。
息をついている杏樹を見ながら、私は内心ため息をつき、席を立った。
その私の姿に、彼女は一瞬不安げな顔をした。“あ、やっちゃった・・・”そう言いたげな顔が、妙に可愛い。
「飲み物、持って来てあげるね」
その不安を取り除くためにそう言い残し、私は部屋をでた。そして台所で、いつもの癖でコーヒーか紅茶を用意しようとして・・・相手が子供なのを思いだし、ジュースでも出そうと思った。けど、普段子供などいない、私一人だけが暮らしているこの家に、ジュースなど常備していなかった。
少し考えてから、年末、御歳暮で頂いた缶ジュースの詰め合わせの箱を引っ張り出して、その中からリンゴの缶ジュースを選んでコップにあけて、持って行った。
部屋に戻った私を見て、杏樹はほっとした笑顔を見せた。そして私が用意したジュースを1口飲んだ。
「これ、おいしい!」
嬉しそうにそう言う彼女に、私は、ずっと聞いてみたい、と思っていた一言を聞いてみた。
「ねえ、杏樹ちゃん?」
「なあに?」
「・・・私のコンサートを聴いて・・私に習いたいって、思ったの?」
そう聞くと、杏樹はうん、と大きく頷いた。
「・・・どうしてかな?」
正直言うと、こんな子供が、私のピアノに引かれた理由が知りたかった。
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