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「あの……、千佳ちゃん」
激しい自己嫌悪の渦に飲まれるわたしの頭の上に、不意に新しい声が加わった。
顔を伏せてても、空気が変わったのが一瞬で分かった。
来た。
とっさに浮かんだのは、その二文字だった。
「朝から元気ないみたいだけど、大丈夫?」
心配そうで優しそうな声が、立て続けに矢みたいに降り注いでくる。
「もし良かったら、これ。さっき購買で買ってきたんだけど、」
ガサガサと、その人物がビニール袋を漁る音が聞こえて。
「千佳ちゃん、飴好き?良かったらこれ、一個どうぞ」
コトリと、机の端になにか硬いものが置かれる音が耳の奥に響いた。
「千佳ちゃんいっつも笑ってるから、どうしたのかなって心配で、」
気遣いに溢れているはずの言葉が、わたしにとってはナイフみたいに鋭く思えた。
「余計なお節介かもしれないけど、」
止めて。
「飴くらいしかあげるものなくて、」
止めてくれ。
「ごめんね?」
…………謝るな。
叫び出しそうになって、ひゅっと息を吸ったと同時に、
ガンッと鈍い音が響き渡った。
教室が、一気にシンと静まり返る。
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