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「中原と同じクラスの、佐野優実」
いきなり意味不明な固有人物名を挙げる、先輩の声。
ナカハラトオナジクラスノ、
サノユウミ。
まるで暗号みたいに頭の中で復唱されたその文を理解するのに、十秒ほどかかってから、恐る恐る先輩の方を振り返った。
「……佐野さんが、何ですか?」
「だから、俺の彼女」
「……カノジョ」
どうやら、聞き間違いではなかったらしい。
やっぱり“俺、彼女できた”で合ってたらしい。
つまり、…………どういう事だ?
「カノジョ、……かのじょ、……かの、じょ?」
「…………大丈夫?」
壊れた機械みたいに同じ言葉を繰り返して固まるわたしを、先輩が怪訝そうな目で見てきた。
その目が暗に、病院行ってこいよと言っている。
「……ま、まとめると、先輩はわたしのクラスメイトの佐野優実と不純異性交遊をしている、と」
「不純、ではないけどね」
ぽつりと呟いたわたしの要約を細々と訂正した先輩が、「今のところは」と不要な訂正を重ねてきた。
…………今の、ところは。
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