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「チカ」
「おーい、チカ?」
「中原千佳さーん?」
「……なかはらっ!!!」
「……………何スか」
耳元で鼓膜が破れるんじゃないかってくらいに叫んできた我が友人、木元飛鳥の方を向くと、その顔は何やら残念なものを見るような目でわたしを見ていた。
「……あんた、死んだ魚みたいに濁った瞳をしているよ?」
「…………はぁ」
「……はぁ、って」
そうだろうなと思いながらまた窓に視線を戻すわたしは、飛鳥に本日何度目か分からない溜息をつかれた。
何にもやる気がでないし、何にも考えられない。
油断すると先輩のことを考えてしまいそうで嫌だったし、窓を見ていないと同じクラスの佐野さんの方を見てしまいそうで嫌だった。
「ほっとけ、色ボケは」
隣の席の西がポケットに両手を突っ込みながら、舌打ちをして吐き捨てるように喧嘩を売ってくる。
いつもなら売られた喧嘩はしっかり買わせて頂くところだけど、今はそんな元気残ってない。
「……楽でいいね、愛を知らない人間って」
「……果てしなくうぜぇ」
ぼそりと口から漏れた本音が相当気に障ったのか、西がわたしの椅子の脚を軽く蹴ってきた。
ガタンと椅子が揺れて、わたしも揺れる。
ぐらんとぶれた視界が、徐々にぼやけて。
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