第1章

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「だっていい男だろ? なんだかんだ思いながら、綾ちゃんが泣き止むのを待っててくれたんだから。」 マスターはその後も瑛二くんのことをベタ褒め。 「マスター、俺のこと買いかぶり過ぎ。」 そう言った瑛二くんの横顔は切なげで、男の切ない顔なんて見たことのないあたしには興味深かった。 「瑛二くんって、彼女いるの?」 「いるよ。」 瑛二くんの遠い目。 彼女と上手くいってないのかな。 そんな瑛二くんと自分を重ね合わせる。 「ふーん…………残念。」 あたしの言葉に、瑛二くんはゆっくりあたしを見た。 「…いないって言ったら?」 「一晩付き合ってもらう。」 「………」 いやいや、そこで沈黙はやめてほしいんだけど。 しかも軽蔑オーラ出してるし。 それに、どんな反応するか見たかっただから言ってみただけだし。 …多分。 って、「多分」を後付けする自分にちょっと驚いた。 「綾ちゃん、やめなさい。」 あたしに突っ込みを入れるマスターにハッとして、あたしは舌を出して謝った。 その後、あたしは瑛二くんに連絡先を教えてって言ったけど、断られた。 彼女のこと大切に思ってる。 いいなー彼女。 あたしなんかと全然違うじゃん。 虚しさを感じつつも、 「じゃあいつかまた、ここで偶然会えたら教えて?」 って、自分でも不思議と食い下がれなかった。
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