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「その理性、手放して。」
咲哉はそう言って、あたしの首筋に顔を埋めた。
「理性って…っ…。」
言葉らしい言葉を発したのはこれが最後。
その後は快楽に溺れて、奥さんのことなんかあっという間に頭からなくなった。
朝。
うっすら目を開けると、咲哉は昨日のスーツに着替えていた。
「…おはよ。
俺、先に出るから。
……また連絡するね。」
あたしの頭をそっと撫でてから、咲哉は部屋を出ていった。
…………またって…。
だけど、その「また」は二週間後だった。
そんなことが積み重なって、私達に「付き合う」という言葉がついた。
デートは月に一回あるかないか。
咲哉は土日は奥さんといるから、平日の仕事が終わった後、車で二時間の所に行ってホテルに泊まり、朝方に帰ってくる。
その他の日に会う時は、あたしの部屋だった。
咲哉の奥さんは、大きな病院の娘さんで看護師。
咲哉は代々伝わる実家の小さな病院との連携を深めるために、研修医期間が終わってすぐにお見合い結婚。
いつだったか、奥さんのことを咲哉に聞いた。
「この時代にいないくらいの箱入り娘でさ、多分親も知らないくらい気が強くてワガママ。」
咲哉は嫌な顔ひとつせずに教えてくれた。
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