第1章

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「その理性、手放して。」 咲哉はそう言って、あたしの首筋に顔を埋めた。 「理性って…っ…。」 言葉らしい言葉を発したのはこれが最後。 その後は快楽に溺れて、奥さんのことなんかあっという間に頭からなくなった。 朝。 うっすら目を開けると、咲哉は昨日のスーツに着替えていた。 「…おはよ。 俺、先に出るから。 ……また連絡するね。」 あたしの頭をそっと撫でてから、咲哉は部屋を出ていった。 …………またって…。 だけど、その「また」は二週間後だった。 そんなことが積み重なって、私達に「付き合う」という言葉がついた。 デートは月に一回あるかないか。 咲哉は土日は奥さんといるから、平日の仕事が終わった後、車で二時間の所に行ってホテルに泊まり、朝方に帰ってくる。 その他の日に会う時は、あたしの部屋だった。 咲哉の奥さんは、大きな病院の娘さんで看護師。 咲哉は代々伝わる実家の小さな病院との連携を深めるために、研修医期間が終わってすぐにお見合い結婚。 いつだったか、奥さんのことを咲哉に聞いた。 「この時代にいないくらいの箱入り娘でさ、多分親も知らないくらい気が強くてワガママ。」 咲哉は嫌な顔ひとつせずに教えてくれた。
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