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最初は平気だった。
奥さんの話を普通に聞けた。
それなのに。
咲哉が彼氏になって半年経つ頃から、奥さんの話を聞くことが出来なくなった。
そして、咲哉もあたしが奥さんの話題を出すと嫌な顔をするようになった。
一緒に過ごしている時の幸福感から、咲哉があたしの部屋を出ていった後は奈落の底に突き落とされたような気持ちになる。
あの日は……会う約束をしていた。
ところが。
『ごめん、奥さんが熱出したから会えなくなった。』
私達が別れても、彼には帰る場所がある。
私達が別れても、自分には何も残らない。
ズルイ。
ズルイ男なのに、好きだという現実。
「あーあ…。」
ソファに携帯を投げ、咲哉と食べるために作った料理をキッチンのゴミ箱に全部捨てた。
……もったいないのはわかってる。
だけど、この料理を見るたびに惨めな気持ちに押し潰されそうで。
先の見えない……いや、先のない恋愛。
ベッドに横になり、何も考えないで寝ようと思った。
…………。
「…もうっ!なんなのよっ!!」
黒くて醜いモヤモヤとした闇が、心の中から取れない。
一人でいるには、あまりにも厳しい。
あたしは約束なんて初めからなかったかのように、今日来ていた服に着替た。
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