第1章

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カラン。 「いらっしゃい。」 マスターの落ち着いた声があたしを迎えてくれる。 このバーは、会社の先輩の行きつけ。 カクテルが美味しくて、マスターの人柄もいい。 店内には男が一番奥に座っていた。 咲哉もその席が空いていればいつもそこに座る。 苦々しい気持ちを抱え一つほど席を空けて、あたしはカウンターの椅子に座った。 あたしのいつもの席の隣。 「マルガリータ頂戴。」 …ああ、こんな時でも咲哉があたしに似合ってるって言ってくれたカクテルを注文してしまう。 「了解。」 マスターは手際よくカクテルを作り始めた。 その間、ふと奥の席を見た。 ……モデル? 短すぎない髪に、男らしい瞳。 横顔を見ているから鼻筋が通っているのが一目瞭然。 しっとりと飲むお酒が、悔しいほど似合っている。 「……いくつ?」 思わず声をかけた。 男はあたしの質問にこちらを見て、 「22。」 って……。 「若っ!いいの?22歳でこんなところで落ち着いてお酒なんか飲んでて! もったいなくない?」 「別に。」 素っ気ない彼の返事。 22って言ったら友達とワイワイ言いながらお酒を飲むような気が…。 しかも、背伸びしている感が全くしない。 働いてるのかも。 モデル事務所とか。 「…社会人?」 「いや、来年から。」 えぇ!? 学生ってこと!? 心底驚いたけど、あんまり驚くのも28の女的には悔しい。 「え~生意気~。」 何となく、余裕のある言葉を口にした。
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