第1章

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嫌な顔をする彼。 あたしは構わず何か話そうとしたら、 「……ぷっ。」 マスターが、笑いながらカクテルをコースターに置いた。 そこからマスターの冗談に笑わされ、あたしは心の中にあるモヤモヤが少しだけ取れた気がした。 それなのに。 「綾ちゃん、今日彼は?」 なんてマスターが聞くから、咲哉のことを思い出した。 『奥さんが熱出したから会えなくなった。』 …咲哉なんか、もう知らない。 「ん?奥さんのとこ。」 って、自分の中にある悔しさに気づかないふりをしてサラッとマスターに言った。 一つ席を空けて座っている彼を見ると……あたしの言葉に嫌悪を示す顔。 意外だった。 その風貌からは、不倫というものも軽く受け流す感じに見えるのに。 「やめてくれる?そーゆー顔するの。」 マイナスな自分をどこかに追いやり、余裕な顔で彼を見る。 「………。」 黙ったままの彼に、あたしは続けた。 「ま、22歳にはまだわからないか。 何も壁のない恋愛しかしたことないだろうし?」 なんて、出会ったばかりの彼に絡むあたし。 どんな反応が返ってくるんだろう。 『色々あるんだね』とか、『大変そうだね』とか? そして彼はあたしを見た。 …軽蔑の眼差しで。
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