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「私は、遊寿(ゆず)というの。…良かったら、貴方たちの名前を教えてくれる?」
「…………。」
少年は、遊寿の笑顔に幾分警戒を緩めたのか、それ以上離れたりはせず、じっと窺うように遊寿を見詰めている。
その様子に、遊寿は思わず微笑んだ。
(…まるで猫みたいだわ)
奇しくも、少年の髪と子猫の毛色は同じだ。脳裏に少し大きい黒猫の姿が浮かぶ。
子猫もなついているようだし、そうすると兄弟猫か親猫か。
初めて見た少年に、遊寿も構えていたが、微笑ましい姿(想像だが)に緊張を解いた。
「…ニャア」
するとそこへ、それまで少年にくっついていた子猫が、遊寿に近付いてきた。
手を差し出すと、鼻を寄せて様子を伺った後、小さな舌で舐めてくる。
「ニィ」
まるで挨拶をするように、子猫は少女を見上げて鳴いた。
「まあ!仲良くしてくれるの?ありがとう」
遊寿が喜んで子猫を撫でれば、子猫から体を擦り付けてくる。その毛は見た目よりずっと柔らかくて温かかった。
「ふふっ、猫ってこんな手触りなのね」
夢中になって子猫を撫でる遊寿を、少年は不思議そうに見ていた。
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