落日

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「どうした、お前らしくもない。気になる音でもあったのだろう?申せ」 言い淀む衣佐を、東賀が促す。 「はい。…ほんの一瞬なのですが、猫から、天鳴樹の音の残滓が…」 「何!?鳴ったのか!?」 東賀は思わず、衣佐に詰め寄った。 「申し訳御座いません。幾度も試みたのですが、この耳で捉えられたのは、その一度きりでした。森からも依然音は聴こえませんでした」 「そうか…。いや、済まぬ。お前の耳に聴こえぬのなら、それ以上調べても無駄だろう。だが、一瞬の残滓であっても、…可能性はあるか」 東賀は顎に手をあて、思案に耽る。 天鳴樹の変化は、どんなに些細なものであっても、見逃せない。ましてそれが“音”に関してならば尚更だ。 猫が入れたことも、やはり気になる。何かしらの因果関係があるかもしれない。 そうであれば、安易に今すぐ猫を排除するのは得策ではないだろう。 「猫の一件を知る者は、どれだけいる?」 「院に現在配置されております、姫と直接接する者達だけで御座います。他の者達の調査は私が“聴いて”行いましたので、猫については知りません」 「では、その者達に伝えよ。その猫は、私が姫の慰みに贈ったものだ、と。そして衣佐、お前は引き続き、猫と天鳴樹に変化がないか調査せよ」
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