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猫という異物が結界に影響を与えないか、一抹の不安はあるが、東賀はしばらく様子を見ることにした。
再び文机に向かおうとして気付く。
「…衣佐?どうした?」
東賀の指示に、いつもなら直ぐに動く衣佐が、物問いたげな視線を送っていた。
「…姫の執着と成り得ますが、宜しいので?」
躊躇いがちに衣佐が口にした質問に、東賀は苦笑するしかない。
「構わぬ。国主の伯父上からも、出来る限り姫の願いは叶えよと命じられた。それにあの姫は、自らの役目を十分過ぎる程に承知しておる。………母に似て、聡い娘だからな」
最後の言葉は、呟きのように弱く、苦さと淋しさを帯びていた。
「…出過ぎたことを申しました。御許しください」
東賀の言葉に、衣佐は伏して詫びた。自分などが口にすべきではなかった。この主は全てを熟慮し、判断している。
「良い。姫が…遊寿が私の妹なのは、楼院の者であれば、誰でも知っている。役目より情が勝るのではないかと、不安に思うのは当然だ」
語る東賀の口調はどこまでも苦く、表情は苦渋に満ちていた。
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