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遊寿は、東賀の年の離れた妹であった。産まれて間もなく、姫の交代があり、クジで遊寿が選ばれたのだ。
国主の姪という立場に、当時の楼院も躊躇った。別の少女を、という声が少なからずあったという。
だが東賀の母は、娘を姫にと、自ら申し出た。娘を愛していなかった訳でも、姫の役目を知らなかった訳でもないのにだ。
羽原咲の者であれば、国のために生きる務めがある。クジで娘が選ばれたのなら、それが娘の務めであり、自分の務めは娘を送り出すことなのだと、そう話したという。
母の決断を間違っていたとは思わない。確かに妹の、遊寿の力は強く、天鳴樹の力の安定が乱れたことはない。
母も激しい葛藤の末、決めたのだということも、今でも常に遊寿を気にかけていることも、知っている。
だが、東賀にとっても、遊寿は可愛い一人だけの妹だ。姫のもう一つの役目を思うと、遣りきれない思いに駆られる。
それは、もう少し前の代であれば、ほとんど果たす必要のない役目だった。
一定の期間、姫として務め、交代の時が来れば、普通の生活を許される筈だった。
何故よりによってこの時期に産まれ、姫に選ばれてしまったのかと、思わずにはいられない。
今まさに、その役目を果たさなければならぬ状況に、天里(あもり)の国は立たされようとしているのだ。
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