落日

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建国よりも古くから、鳴花の木は存在していた。だがその生態については、あまり分かっていない。 先人達にとって、当たり前の存在だったのだろう。 それでも、花がつかなくなった原因が分かればと、東賀自ら、羽原咲家に残る過去の膨大な記録を総ざらいした。 ようやく糸口らしきものを見付けたのが、つい最近である。 しかしそれも、暗礁に乗り上げようとしていた。 「せめて、《夜実(よさね)家》の生き残りが見付かれば…」 己の無力さと歯痒さに、焦りは募るばかり。東賀は苦く重い溜め息をつく。 主の苦悩に、衣佐も固く拳を握り締めた。 ――沈鬱な空気が漂う部屋の外、西の彼方に真っ赤な夕日が沈もうとしていた。
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