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――――……‥
チリチリン…
広い森に、鈴の音が響く。
「待って!トキコ!」
チリンッ
少女の声に答えるように、また鈴が鳴る。
少女は遊寿(ゆず)であった。
遊寿が走って音を追い掛け、茂みを抜けると、首に鈴をつけた黒い子猫が、木の虚の前に座っていた。
「ニャア!」
「トキコは足が速すぎるわ!いつも待ってって言ってるのに…」
子猫に向かって真面目に文句をつけている遊寿に、声が掛けられる。
「…その名前、やっぱり本気なんだ」
虚の中から出てきたのは十希夜(ときや)だ。
「ニャアニャア!」
トキコと呼ばれた子猫が、嬉しそうに十希夜に擦り寄る。
「もちろんよ。十希夜が連れてた猫だし、女の子だったんだもの。だからトキコ。可愛い名前でしょ?」
十希夜が子猫と一緒に、天鳴樹の森に迷い込んでから数日が経った。
何故、ずっと下流の川に落ちた筈の十希夜が、上流へ、しかも結界の中に入ってしまったのか、いくら考えても分からない。
ただ最初に遊寿が思ったのは、この事が人に知られてはいけない、ということだった。
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