平穏

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もう少しだけ、一緒に過ごしたい。その一心で、遊寿は十希夜を説得した。 最初は躊躇っていた十希夜だが、結界のこともあって、遊寿の提案に頷いてくれた。 そして遊寿は、屋敷の世話役の者に、子猫のことだけ伝え、飼う許可を求めることにした。 結界の中に誰かが入ったことは、いずればれてしまうかもしれない。だが先に子猫のことを報告しておけば、十希夜の存在から、目を逸らせると考えたのだ。 生まれて初めての隠し事だった。楼主様から返事待つ間、ずっとドキドキしていた。許可が出た時は、心底安堵したものだ。 実は、衣佐(いさ)のことも、善知烏(うとう)の力も、遊寿は知らなかった。 だからもしも衣佐が、話を遊寿から聴いていたら、十希夜のことは隠せなかっただろう。 しかし衣佐は、姫と直接会うことを許されていないため、預かった子猫は調べても、遊寿自身は調べなかった。 そして、これも遊寿は知らないが、衣佐は森を念入りに調べた。にも関わらず、衣佐の耳に音は届かず、十希夜を見付けることは出来なかったのである。
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