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何にせよ、十希夜のことは隠すことが出来た。
遊寿は子猫との散歩という口実で、毎日のように十希夜に会いに森に来ている。
時々ご飯も、こっそり残して持ってくるのだが、これは十希夜があまりいい顔をしない。
森に食べれる物は沢山あるから、ちゃんと自分が食べろと怒る。
自分の身を心配してくれる、その気遣いが嬉しかった。
十希夜とは色んな話をした。大体は遊寿が、自分のことを話すだけだが、どんなに他愛ない話でも、じっと静かに聞いてくれた。
徐々に十希夜も、ぽつりぽつりと、自分のことを話してくれるようになった。
両親も身寄りもいないこと。今まで仕事をしながら、あちこち旅したこと。
特に旅先で見た景色や、変わった料理の話は、外に出られない遊寿にとって、何より楽しいものだった。
目を輝かせる遊寿に請われるまま、時には地面に枝で図を描きながら説明してくれた。
遊寿にとって、十希夜は、焦がれてやまない外の世界そのものだった。
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