36人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
だが、大きな問題もあった。
この天鳴樹に宿る霊力が、あまりにも莫大すぎたのだ。
満足に扱えるのは、能力者の中でも最強の血族とされる《羽原咲(はばさき)家》の一族だけ。
そのため、代々この羽原咲家から、国主と、楼院の代表である楼主(ろうしゅ)が選ばれる。
しかし、その羽原咲の能力をもってしても、天鳴樹の力を完全に制御するのは難しい。
そこで、霊力を制御し固定する錨として、一人の少女が選ばれてきた。
天鳴樹と同調させた少女を介すことによって、その力を安定させることができ、そうしてようやく、国全体を覆う程の巨大な結界を展開、維持できるのだ。
数年ごとに選ばれる、この少女は《天鳴樹の姫》と呼ばれ、国主同様に崇敬の対象となっている。
その姫が住むのは、ごく一部の者しか入れない天鳴樹の森の中。
大きな屋敷の最奥だ。
しかし、知らぬ者は、その屋敷が姫の住まいだとは思わないであろう。
入れるのは、国主と楼主と、数人の使用人だけ。
屋敷に張られている強力な結界は、侵入者だけでなく、中から出ていく者すらも防ぐ。
そこは異様なほど、外界から完全に隔絶され、重々しい雰囲気に包まれているのであった――。
最初のコメントを投稿しよう!