天里(あもり)の国

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だが、大きな問題もあった。 この天鳴樹に宿る霊力が、あまりにも莫大すぎたのだ。 満足に扱えるのは、能力者の中でも最強の血族とされる《羽原咲(はばさき)家》の一族だけ。 そのため、代々この羽原咲家から、国主と、楼院の代表である楼主(ろうしゅ)が選ばれる。 しかし、その羽原咲の能力をもってしても、天鳴樹の力を完全に制御するのは難しい。 そこで、霊力を制御し固定する錨として、一人の少女が選ばれてきた。 天鳴樹と同調させた少女を介すことによって、その力を安定させることができ、そうしてようやく、国全体を覆う程の巨大な結界を展開、維持できるのだ。 数年ごとに選ばれる、この少女は《天鳴樹の姫》と呼ばれ、国主同様に崇敬の対象となっている。 その姫が住むのは、ごく一部の者しか入れない天鳴樹の森の中。 大きな屋敷の最奥だ。 しかし、知らぬ者は、その屋敷が姫の住まいだとは思わないであろう。 入れるのは、国主と楼主と、数人の使用人だけ。 屋敷に張られている強力な結界は、侵入者だけでなく、中から出ていく者すらも防ぐ。 そこは異様なほど、外界から完全に隔絶され、重々しい雰囲気に包まれているのであった――。
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