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少女の手が触れる寸前、少年の懐の辺りが動いたではないか。
少女は慌てて伸ばした手を引っ込める。
固唾を飲みながら、なおも動き続ける懐を見詰めていると…。
「ニャア」
「…猫!?」
なんと中から、一匹の黒い子猫が顔を出した。
驚いて思わず大きな声を出してしまい、慌てて口を押さえる。
「………ん…」
少女の大声のせいか、子猫が動いたせいか、少年は眉間に皺を寄せて、身動ぎする。
さらに、いつの間にか懐から出ていた子猫が、少年の顔を舐めだした。
その刺激に、閉ざされていた瞼が、震えながら開かれていく。
少女は、目が離せなかった。
ゆっくり開かれた瞼の下、覗いた瞳は黒。
いや、わずかに赤味がかったような、不思議な黒色だ。
少女はその瞳の色を見て、夜明け前の、朝焼けの気配をたたえた空の色を思い出した。
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