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その日、世界中の人間が『彼』の夢を見た。
『O次郎』も例外ではなかった。
深夜に、早朝に、寝室のベッド、であるいは会社、もしくはラブホテルで。
異床同夢、世界中の夢に現れて『彼』は言った。
いや、言ったように思う、『彼』の正確な言葉は何一つ聞き取れなかった。
「私は君たちに絶望した」
「君たちは非常に罪深い生き物だ」
「よってこれから君たちに罰を与える」
不思議な事に水が浸みていくように無意識に彼は語りかけてきた。
『O次郎』は『彼』の言う『罪』が何を指すのか解らなかったが、早朝、目が覚めると同時に学習机の一番引き出しの下に隠し持っていたエロ雑誌を新聞に隠し挟み、廃品回収に出した。
朝の食卓では父と母が昨日の夢の話を盛り返していた。
「集団ヒステリーか!?全国で奇妙な夢」
テレビではどのチャンネルを移しても残像が写っているのか同じ内容をを繰り返している。
学校でも同じだった。
登校中にあった愛の助しかり全員が同じ夢を見ていた。
「いや、あれは海を汚す俺たちへの警鐘だね、きっと」
日に焼けた顔をさらして野球部の『H良』は言う。
そういえばコイツの家は環境保全家で有名だったんだけ。『O次郎』は思った。
ともあれその日から世界が変化した。
その全貌が明らかになったのは部活を終えた『O次郎』が夕方家に帰った時だった。
薄暗いリビングで両親が言葉を失ってテレビを見ている。
予言者のように40型の薄い液晶テレビは新しい世界を暴いていた。
今流れている映像は誰かが『携帯』で撮影したものだろうか。
どこかの地下鉄か、家路つく人々が駅のホームで列を作って待っている。
その人たちを追い越して突然走り来た女性がホーム橋で踏み切り、下へ落ちる。
そして、衆人注視する中、時間通りに迫り来る10トンの都電は線路に横たわる女性を丁寧にアイロンかけた。
『O次郎』は思わず目を背けた。
ネットでよくある衝撃映像ってやつだ。
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