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「うええ」
『O次郎』は眉をひそめて、二階に上がろうとした。
しかし、映像はそこで終わらなかった。
『なんとこのあとに』
というテロップを映しながら映像は途切れることなくしばらくそのままで慌てふためく人々の姿を流し続けた。
そして次の瞬間、騒然とするホームに電車の下から指がかかった。
二十センチくらいか、細いホームと列車の間からなんと被害者の女性が這い上がって来たのだ。
奇跡だ、単純な人々はそう言いそやすことだろう。
そう『奇跡』だ。 残念なことに。
女性は生きていた。
頭の半分と左半身を失い、暗い血を噴き出しながらも『なぜか女性は生きている』のだ。
どうみても致命的で、死んであるべき人間が目の前で生きているのだ。
画面を通しても現場が騒然としていることがわかる。
目撃者は全員凍り付いたような奇妙な顔をしている。
ありえない現実とほっとした願望がせめぎあったとき人はこんな表情になるのか。
女はあとずさる群衆を気にすることなくホーム中央まで這い上がると動きを止めた。
奇妙なことに女の傷口から白い煙が湯気のように立ち上っている。
そして昇る煙に比例して傷が逆再生で塞がっていき、最後には着ていた服まで再生された。
気がつけば女は走り来た時と同じような姿に戻っていた。
立ち上がった女は今ごろになって周囲の目線に気づいたのか、浮かない顔で女がホームから出て行く様子で映像は終わる。
ともあれこの日から世界は『死』を無くした。
それがバツなのかどうかはそのときは誰もわからなかった。
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