第9.8章

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第9.8章

また、あの暗闇の中にいた。 膝を抱え込んで座っていると、誰かが近付いてくる気配がした。 顔は、上げなくても分かってる。 アイツと、またあってしまった。 『がっかりだ』 「うるさい、人はそんなはよぉ変われへんねん」 『言い訳だろ?まあ、自分でも分かってると思うけど』 ハッ、と軽蔑を込めた笑いが頭の上から降ってきた。 うるさい、と心の中で呟いて、膝を抱き抱えるようにして体を丸めた。 もう、こいつの声も聞きたくない。 「陰華に、酷いことしてしもた…」 自分から出た声が、酷く弱々しい。 『酷いことしたって、思ってんのか』 「当たり前やん。好きなやつに好きになられんけど付き合ったるって言われたら誰だってへこむやんか」 そうとわかりながらも陰華にそう言ったのは、 言ったのは…。 『お前のわがままだろ?』 「……せや、俺のわがまま」 だってしゃーないやろ? 流されて、タガが外れた。 陰華と俺の間に作った線。まあ、俺が勝手に心の中に作ってただけだけど。 けど、それも簡単に越えてしまった。 そしたらさ、やっぱり責任はとらなあかんやろ? ほら、色々致してしまったわけやし? 最後までしてしまったわけではないけどさ。 でも俺は精一杯あいつの色々なところを触ったし、気持ちいいこともした。 あん時の俺の気持ちは本物。 陰華が俺に向ける気持ちに気付いていたし、俺がもってる陰華への気持ちも知ってる。 俺は陰華が好きや。 それを陰華に言ってしまえば、あいつは喜ぶんやと思うし、俺もきっと幸せ。 でも、あかん。 俺は人を好きになることが怖いから。 幸せなんて、すぐに消えてしまうと、そう思ってしまうから。 でも、してしまったことに責任はとらなあかん。 やから俺は陰華を自分のものにせえへん、なんて条件を付けて陰華と付き合うことにした。 最初から気持ちがなかったら終わったときになんも感じひんと、そう思うから。
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