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「あ…この木、桜や」
通りすがりの公園の隅に一本だけ。すっかり葉桜になった桜の木が立っていた。
幹はそれなりに太く、枝ものびのびと太陽の光を受け止めている。
生き生きと元気な若者、といった印象を受けた。
「春になったら、ものごっつうきれいなんやろなぁ」
春、満開の桜のもとで賑わう人々の姿が安易に想像できる。
きっとこの木の周りにはひとが沢山集まるのだろう。
何てことを思いながら、いつの間にか止まっていた足を再び動かした。
公園が目印だったのを思い出して、ポケットに突っ込んだしわしわの地図を引っ張り出す。
「えーっと、公園がある道に出たら、公園を左側にして立った方向でまっすぐ進む…と。ほんで二個目のかどを右に曲がればええねんな」
(ほんでまたまっすぐ行くと、今日から俺が通う学校に着く、と。)
今は5月の初め。せっかく地元の高校で2年に進級したのに、親の急な転勤で俺まで転校するはめになってしもた。
しかも、関西に住んでたのにいきなり関東に来るとかっ!
複雑なお年頃の俺にはちょっと大変。
(心の準備とか、あんまりできへんかったし!)
町を歩けば、耳に入ってくるのは標準語。なんか違和感がある。それにこれからの日常のなかで、きっとこんな違和感がうじゃうじゃ現れるのだろうと、
そんなことを考えて少し憂鬱になった。
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