第1章 俺のおまわりさん

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でもイヴの晩、俺は手を出さなかった。 ファミレスで飯食って 居酒屋行って酒飲んで ヘラヘラ笑うおまわりさんから、名前と連絡先をゲットしただけに終わった。 ――犬井誠(いぬいまこと)って言います。しょくぎょうはけいさつかんれす。 俺を一時停止で取り締まったくせに、名前を教えてよって言ったら、職業までご丁寧に呂律の怪しい状態で改めて言っちゃうような そんな天然マコが可愛くて、その晩は食べるのをやめた。 俺の知り合いがそれを知ったら、白目になるほど驚くことなんだぞ。 手と警察からの逃げ足だけは速い俺が据え膳のままって それがどんだけありえないことなのか、わかってんのか?  正月はこいつ、また、仕事押し付けられて会えなかったし。 んで、そのあと、会った時には連勤疲れでヘロヘロだったから、また何もせず。 つか、仕事押し付けられすぎなんだよ。 パワハラだろうがって言えよ。 警察官なんだから。 いまだに、キスすらしてないって、俺の人生初なんだぞ、こら。 「ちょ、離してくださいっ! ここ、公衆の面前ですよ!」 「別にハグくらいで捕まらねぇよ。裸で抱き合ってるわけでもないのに」 「! そ、そそそそんなの、あたりまえです!」 ハグ止まりってなんだよ。 脱童貞が中学ン時、ナンパしてきた女とその日のうちにっていう俺に、どんだけ足踏みさせる気だよ。 「それと! マコちゃんってやめてくださいって何度言ったら」 「じゃあ……マコ……なら文句ねぇ?」 「……」 そこで、腕の中からこっち見上げて頬を綺麗なピンク色にするって なんだそれ。 「ちゃんって女の人じゃないんですから。でも、そ、それなら、まだ、はい……」 可愛い。 食べたい。 「マコ」 「は、い」 低く、少しだけ艶っぽく名前を呼ぶと、腕の中で、ヒクンと反応していて、それがまた小動物っぽい感じでたまんねぇ。 何度呼んでも、必ず反応する抱き心地最高のおまわりさん。 「マコ」 「はい」 「キスしようか」 「は……ダメです!」 ポーッとしてるから素直に返事しそうだったけど、そこはしっかりダメと宣言するマコが可愛くて、可愛くて 思わず、ぎゅっと力いっぱい抱き締めていた。
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