第1章

3/4
前へ
/4ページ
次へ
2人以外の女性社員も都会的で華やか。 都心の綺麗なオフィスの片隅で、自分の存在を消すかのように息を殺してひたすらパソコンに向かう。 ……あぁ、少し埃っぽくて湿っぽい、薄暗ーい前の職場が懐かしい。 エアコン代ケチるもんだから、夏はじめじめするわ冬は寒いわでろくなことなかったけど、でも今じゃこんなにも恋しい。 それがどうしてこんなところに……。 遡ること半月程前、私の人生を揺るがす事件が起こった。 まだ世間がクリスマス前で浮かれていた頃……、 職場のラジオに流れる音楽もクリスマスソング一色だった。 『えー、本日はクリスマスにちなんだ曲をお送りしております。もうすぐクリスマスということで、街中でもクリスマスソングをよく耳にするのではないでしょうか……』 「やだー、クリスマスだってー」 「早いよねー、今年もう終わっちゃうよ」 「アキナはいいじゃん、どうせ彼氏と過ごすんでしょー?」 「まぁ、そうだけど。そろそろ別れようか考えててさー」 「えーなんでー?」 「なんかやっぱ収入とか考えちゃうとさー、私専業主婦になりたいんだよねー。あいつの稼ぎだけだとちょっときついんだよ」 「まぁ、収入は重要だよねー」 若い女の子達がラジオの話題に反応して完全にプライベートな話をし始める。 「あ、あの皆ね。お喋りもそれ位にしてちゃんとお仕事しようね?」 そこに割って入る、一応上司の頭の薄い白髪のおじいさん。 「はーい」 「すいませーん」 すると、ゆとり全開のゆるーい返事が返ってくる。 上司の塚原さんは常に温厚篤実、いつも困り顔で若い女の子達を注意するも全く聞き入れてもらえない、ちょっと可哀想な人。 こんな締まりのない職場で私は黙々と作業をこなす。 ここはとある自動車メーカーの下請けの下請けの下請けの末端、しがない町工場だ。そこで私は事務員として20代の女の子達とひっそり働いていた。 とは言っても、私と若い女の子達の話が合うがずもなく、仕事以外では滅多に話すこともなかった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加