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夜。アーロンの部屋にノックが響く。
「どうぞ」
「こんばんは」
顔を覗かせたのはリリアンナだった。昼間とは違い、薄いピンクのネグリジェを着ている。時計の針は十二時を過ぎていた。アーロンはペンを動かす手を止め、リリアンナを迎え入れた。
「夜分失礼します。お疲れのところ申し訳ありません。この時間しか抜け出せなかったものですから」
「ご用件は」
「フィアンセの帰還を祝いに」
するりと部屋に入ったリリアンナは内側から鍵をかけ、満足気に笑みを浮かべた。
「これで完全に二人きり」
「そうですね」
「……ですから、その口調はやめろと再三申し上げましたよね? 昼間とは違うのですから、気を遣わないでください」
「分かりました……お姫様」
「ケンカ売ってますの?」
アーロンは笑顔で青筋を立てるリリアンナの唇に指を当てた。
「そんな言葉あんたには似合わない」
リリアンナは顔を真っ赤に染め、一つ咳払いをした。
「訊ねたいことがありますの。聞いていただけますか?」
「ああ」
アーロンはソファを勧めたが、リリアンナはこちらがいいと、アーロンのベッドに並んで座った。
「今度騎士団長をお勤めになるとか。父上から伺いました」
「耳が早いんだな。まだ機密事項だ」
「ええ、勿論。任命式まではヒミツ、ですよね? あなたの補佐は、ええと、あのムサ……体格のいい方ですわよね」
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