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「レティ」
「……確かそんな名前でしたわね。まあ、彼のことはいいのです。あなたが騎士団長に任命されたことを、わたくしの言葉でお祝いを言いたくて」
任命式では形式的なことしか言うことができない。もしくは発言の機会すら与えられないかもしれない。だから、
「おめでとうございます、アーロン」
花のような笑顔。アーロンにしか見せない、本当の笑顔にのせて、彼女は言った。
「ありがたきお言葉」
相変わらず表情の乏しいアーロンだったが、薄く目を細め、リリアンナの手にキスをした。
リリアンナの脳裏にかつての思い出が浮かぶ。もう一年以上前になる。彼が出立する前に交わした口づけ。
「あなたは……」
言いかけてやめた。金色の隻眼が見上げる。リリアンナは悲しそうに瞳を細め、アーロンの傷を指先で辿る。
小さな箱からあるものを取りだすと、アーロンに結んだ。右目の傷を覆う眼帯。黒字に細かく金の装飾が施された、いかにも高級そうな代物だった。
「わたくしからの贈り物です。あなたのこれからの幸運と健闘を祈って。それから……これからもずっと、わたくしの騎士でいてくださいね」
「……仰せのままに」
アーロンはただ静かに、彼女の言葉を受け入れた。
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