Dissonance

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 魔法使いたちが強力な魔法を放つ。対魔法装甲の戦車はそれをものともせず、大砲を打ち続けながら、魔法使いたちを轢き殺す。悲しくもそれが現実であった。  ライザックは覚束ない足取りで戦地を歩いていた。仲間の悲鳴と火薬の匂い。強く唇を噛んだ。乾いた皮膚が裂け、血が出てくるが、仲間の苦しみと比べれば断然マシだ。彼は、自分が何もできないことを悔やんでいた。  腕で押さえた鎧の隙から止めどなく血が流れている。彼もまた、機械の力により、横腹を削り取られているのだ。普通ならばとっくに失血死してもおかしくないほどの重傷だ。それでもこうして立っていられるのは彼の気力か、幸運か。だが、ついには力つき、地面に倒れ付した。  空に向かって手を伸ばす。どこまでも青く遠い空。いとおしいほど空は美しかった。 「リリアンナ……」  駆け巡るのは婚約者との思い出。こうしていれば彼女に手が届く気がした。祖国に残してきた愛するプリンセス。こんな形で別れることとなるとは、想像できなかったわけではない。騎士団長という肩書きがあろうとも、ライザックも一兵士にすぎないのだから。  死にたくない。  切にそう思った。だが自分の最期というのは分かりたくなくても分かってしまう。やがて腕に力が入らなくなって、意識が薄れていく。痛みを感じない。彼は様々な感情を抱きつつも、伝えられぬもどかしさの中、その思いを胸に秘めたまま目を閉じた。
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