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するりとリボンをほどくように、青年の腰に手をまわす。そしてその暖かな腕の中に顔を埋めた。ビロードのような金と黒が混ざり会う。
「あなたは正義です。正義は常に正しい。あなたは最高の騎士。わたくしだけの騎士」
二色の瞳が絡めあう。そして唇を重ねる。それは淡く甘い口づけ。
美しい姫君はその口で告げる。
「アーロン、わたくしの愛しい人。わたくしのヒーロー」
それから任命式まで二人は会うことはなかった。リリアンナは一国の姫として、アーロンは国を守る騎士としてそれぞれ時を過ごしていた。……そう表向きでは。
お出かけですか、とメイドがきいた。仕事だ、とアーロンは答えた。素っ気ない返事だがまるでいつもと変わりがなかったから、メイドはただ見送るだけだった。彼が苦手な鎧を着ていたことすら普通にしか見えなかった。
アーロンは城門を出ると、直ぐ様路地に入り、鎧を脱いだ。
「あっっっつい、ですわ!」
鎧の下から現れたリリアンナは、漸く触れた外の空気に大きく深呼吸をした。アーロンの鎧の隙間を利用したリリアンナの発案だったが、二人で着るのは流石に狭かった。リリアンナの自慢の髪も熱気で乱れている。
「少し無茶だったんじゃないか?」
「……あなた、なんでそんなに普通ですの?」
「俺は顔を出していたから」
「成る程。まあ、でも脱出成功ですわね。やってみればできるものです。多少の無茶は覚悟の上ですわ」
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