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そう言って胸を張るリリアンナは城にいたときより生き生きしているように見えた。
アーロンはリリアンナの髪を整えつつ、先日のことを思い出す。
『──わたくしを、連れ出してほしいのです』
懇願する濡れた瞳。
『ずっとではないのです。たったの一日だけ。わたくしを城の外に。式の前に、あなたと離れる前に』
分かった、と頷く声が再生される。すっと瞬きをし、リリアンナの耳元に囁く。
「上手く抜け出せたとはいってもあまり長い時間いられない」
「大丈夫ですわ、体調が悪いのでお稽古など一切合切お休みするよう伝えています。部屋も静かにしたいから開けないように伝えてありますから。夕食までならば問題ありません」
「そうか……それでどこに行きたいんだ?」
リリアンナの装いは、流石に一目でプリンセスだと分かるようなものではなく、一番地味なものを選らんだとはいえ、決して一般人のものとはいえない。早めに移動する必要がある。
伏し目がちに、彼女は口を開く。
「西の……森に」
「分かった」
アーロンは理由すら聞かずに、リリアンナの手を取る。
パチンと指を鳴らすと、次の瞬間には、彼らの姿は跡形もなく消えていた。
***
「この森には魔女が住んでいる、なんて噂が街で流れているらしいですわ」
西の森は針葉樹が覆い茂る暗い森だった。歩く度に湿った腐葉土が沈む。
二人の吐く息は白く曇っていた。
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