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「……」
リリアンナは口元を抑えてくすりと笑う。
「意外そうね。わたくしはあなたの目にどう写っているのですか?」
「 庶民には興味ないとばかり」
「そんなことありませんわ。わたくしは常に彼らのことを心がけています。それが上に立つものとしてできる最低限のことでしょう?」
「……そうだな」
「ふふっ、噂話はお嫌い?」
「嫌いじゃないさ。好きかと言われればそれも違うが、おもしろいものだとは思う。噂には人の心がよく見える。羨望から、怨みや妬み、そして人間の意思」
リリアンナは目を丸くして驚いたようにアーロンを見つめた。
「今日は珍しく饒舌ですね。いつもなら短い言葉だけですのに。酷いときなら頷くだけでしたわ」
「あんたこそ」
予想しない返答に、リリアンナは口元を抑え「私らしくありませんでしたね」といつもの笑顔で言った。
奇妙な沈黙が、二人の間を流れる。ただ自然の音が隙間を埋めるように、細やかに響いた。
桃色の唇が小さく動く。
「……あなたは蟲毒を、ご存知ですか?」
脈絡のない話に少し間が空き、アーロンが答える。
「聞いたことはある」
「流石ご聡明です。蟲毒は遠い東方の地に伝わる一種の呪法です。効果は様々ですが、人を死に至らしめる強力な毒です」
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