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「忘れられるわけがないではないですか。あの人はあなたを除いて唯一の私の心を知る人」
涙が頬を伝う。喉に何かがつまるような苦しみがあった。
「私の愛した人。そして……」
「あんたが殺した人」
リリアンナの肩がびくりと震える。寒気が背筋をぞわりと浸食する。
ゆるゆると見上げたリリアンナの目に写るのは、感情という感情が消え去った、ぞっとするような冷たく虚ろな瞳。
「彼を殺したのは、あなた……ですよ」
「あの人をあの姿にしたのはあんただ。あの人はそれを望んでいないかった。だから俺が終わらせた。あんたが裏切ったせいで死んだ。あんたの毒牙が兄さんを殺した」
兄さん……?
アーロンの言葉を口の中で呟く。
「あの人は……ライ兄は俺のただ一人の兄。俺の家族だ」
少し俯き気味に発せられるのは、リリアンナには今まで見せたことのない、繊細な口調だった。しかしそれも刹那。
「そんなはずは、そんなはずはありません! あの人には妹しかいないはず! 弟の存在などありえません。だって私は……!」
「それはあんたが望む真実だろう」
再び色が消える。
「俺にあの人との血の繋がりはない。だが、俺はあの人に家族の繋がりを持つことを許された。それが真実」
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