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「あり得ない……! それなら私が気付くはずです!」
「いくら否定しようとも真実は変わらない。それにあんたが俺にきくべきはそんなことではないはずだ」
リリアンナははっとする。普通の人間ならば、むきになるのはここではない。
もう遅いと知りながらも、アーロンの作った波に乗るしかない。
「……何故、私の騎士になったのですか。あなたの家族を奪った悪女のものに」
掠れた声でなんとか言葉を紡ぐ。
返事は──美しい笑み。
「……っ!」
リリアンナは反射的に身体を引き離した。
いつもいつも願っていた。いつも冷たく凍ったような彼が笑ってくれることを。初めて見る笑顔はまさしく神の彫像美。人間離れした美しさに思わず取り込まれそうな妖しさを持った。それが──どうしてこれほど恐ろしいのだろうか。
まるで白昼夢を見ているような曖昧な感覚。気づけばナイフを取り出して、アーロンに向かって駆け出していた。
「うああああああ!!!」
銀の刀身が煌めく。しかしそれが赤く染まることはなかった。
リリアンナの腕をアーロンが捉え、捻りあげる。痛みにあげそうになった声を喉の奥で噛み殺す。
抜け出そうと試みるも、小柄であろうとも男性。加減なしの力がリリアンナの細い手首に食い込む。
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