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リリアンナはそれでもナイフを離さなかった。
食事に使うようなものではない。折り畳み式の質素なナイフ。護身用のもの……といいたいところだが、かなり不自然だった。何より刀身が長く、刃が鋭い。少なくとも持ち運びに適したものではないだろう。
アーロンは目を細め、リリアンナを解放した。
支えを失ったリリアンナは地面に崩れ落ちる。乱れた髪の隙間から苦しそうにアーロンを見上げる。
「あなたの言葉は……すべて復讐のための言葉だったのですか」
欲しい答えが返ってこないとしりながらも、リリアンナは問う。
「あんたの親は随分過保護だ」
「え……?」
「何故俺がこんな無茶な命令をきいたか分かるか?」
頭に熱が籠り、思考が働かない。だが彼にしては珍しく答えを与えてくれた。一番聞きたくなかった答えを。
「ここはあんたの望む『西の森』ではない。それが意味することが分かるか?」
気付いた時にはもう遅い。
右手を動かそうとするが、それはぴくりとも動かなかった。そこには蔦がまるで恋人が去るのを留めるように巻き付いていた。単なる偶然ではないだろう。
リリアンナは顔をひきつらせ、あくまで落ち着いて左手で取り払った。
自由になった右手を地面について立ち上がろうとする。しかし強い力で引き戻された。
「いや……いやよ!」
蔦がまるで意思を持っているかのようにうねり、リリアンナを捕らえる。
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