16人が本棚に入れています
本棚に追加
その一つの魔法にどのくらいの威力があるのだろう。人間だったころのライザックは魔法の腕もなかなかのものだっが、悪魔となり、箍が外れた彼の力は底知れない。
「誰か! この化け物を討て!」
しかし、王の叫びに答えるものはいなかった。
もうどこにも逃げられない。人々の間に絶望の色が広がっていく。助かるためにはライザックに立ち向かう以外の方法はないのだが、彼らはすでにその気力さえ無くしていた。
魔力の球が一際輝く。いよいよなのだ。人々は静かにその時を待った。
だが、魔法が発動することはなかった。
「ギィ……アガ……」
腕を降り下ろそうとする形で動きを止めたライザックは苦しそうに呻く。その胸には肌の色と対称的な白銀が輝いている。
魔法は行き場をなくしたかのように空気中に霧散する。ゆっくりと振り向いたライザックの目にフードを被った人物の金色の瞳が映った。彼は剣を真一文字に奮う。
「────!」
声にならない悲鳴を上げながら、ライザックは最後の力で金色を切り裂く。ふわりとフードが舞う。飛び散る赤とともに、ライザックの体は砂のようになり、風に流されていった。
地上に下り立ったその人物を人々は称えた。露になった端整な顔立ちに観客たちはさらに熱狂する。目の治療を勧めた者もいた。だが彼は見向きもせず、ただライザックが消えていった空を眺めていた。
最初のコメントを投稿しよう!