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とある冬の昼下がり。草木を濡らす朝露は氷り、光を浴びてキラキラと輝いている。動物たちは長い眠りについているのか、鳥などの声もない。
青年は冷たい風に当てられながらも、氷っているかのように表情を変えず、立ち尽くしていた。束ねた長い金髪。固く閉じられた右目には痛々しい傷痕が残っていた。それでもなお、青年には彫像のような美しさがあった。
青年はゆっくりと、その場所へと歩みを進めた。
枯れかけた木には蔓が巻き、雑草は好き勝手生えている。手入れされているとは思われない殺風景な場所。そこに小さな白い石があった。
青年はそこに刻まれた文字を指で辿る。
小さく息を吐くと、祈るような体勢で目を閉じる。そして暫く沈黙の時をすごす。
やがて無言のまま、そこを後にした。
──『ライザック』。
石に刻まれた名は、魔導国に知れわたる極悪人の名。対して青年は魔導国に知らない者はいない英雄だった。
「アーロン! いったぞ!」
親友であり、戦友であるレティの呼び声に英雄と呼ばれる青年はそちらへ視線を向けた。
それは赤い鱗に覆われた巨体をうねらせ、彼に迫ってきていた。火竜サラマンダー。気性が荒く、視界に入る者は焼き尽くすといわれる凶暴なドラゴンだ。
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