第1章

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   だからって、完全に気が晴れたりしないのは、そのシャボン玉が割れずに残ってるから。  やっぱり本質的な部分で、今日の勇人の事が頭の奥底にこびり付いている。  マスターは、注文していないのに、私にカクテルを出してくれた。 「あの、これ……」 「本日は、少々落ち込んでいる様子ですので、口当たりのいいものがいいかと。ただしこちらは、飲みやすいのでゆっくりとお楽しみください」 「はい、気を付けます」  淡いピンクのカクテルは、微炭酸の気泡がグラスの底から立ち昇る。そして可愛らしい見た目に加えて、甘い香りが気持ちを和らげてくれた。  マスターは、私のやけ酒を見透かしたよう。  先読みしてクギを刺してくれたので、落ち込んだ気持ちのままにカクテルを飲まずに済んだ。  ゆっくりと一口含んで見る。  マスターの言った通りで、口当たりのいい優しい味わいのカクテルだった。
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