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「……あの」
「え?あ、ごめん」
見惚れていたことに文句を言われるかと思い、つい口から謝罪の言葉が出た。
「ほんと、ごめんね」
足のこともあったし、もう一度彼女に謝ってその場を去ろうとした。
「あっ…待って」
彼女が俺の腕をクイっと引く。
な、なんだ…?
すると、彼女は
スッと俺の前に立ち、手入れの行き届いた細長いキレイな指で、ジャケットのボタンに手をかけた。
「ごめんなさい」
ボタンに、彼女の持っていたバイオリンケースのストラップが絡みついたようで
さっきの怪訝な表情とは一転
今度は彼女が謝りながら、ストラップを解いていった。
バイオリンを持っているってことは音楽科の子だよな…
「…音楽やってるんだね。俺、美術の方なんだ」
どうにか、彼女との繋がりの探そうととっさにそんな言葉が口をついて出た。
「…………」
だけど、彼女から返事はない。
「結城…龍也(ゆうきたつや)って言うんだけど…俺」
君は?
と聞いても、やっぱり彼女は応えてくれない。
俺たちの横を通り過ぎていく新入生たちが、チラチラと視線を送る。
「…あ」
彼女のか細く出た声に気づき、自分の胸元に視線を落とした。
「すみませんでした」
一瞬だけチラッと俺の目を見ながら、彼女はそう呟くと
引き止める間も無く人混みの中へと消えていった。
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