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薄暗いライトに
光沢のかかった小さめのステージ
グランドピアノがステージの左側を陣取っていて
店の中央には、大きなシャンデリア
お客は、お酒を楽しみに来ているというより、この身体に染み込んでくる音楽と歌を聴きに来ている様子だ。
初めてのこの空間に、俺の目はステージに釘付けになっていた。
「いい店だろ…?」
太一が俺の耳元で静かに呟く。
「あぁ…」
いい店なんてモンじゃない。
「お前…なんでこんな店知ってんの?」
「この前、親父と兄貴と会ってさ。ここに連れてこられた」
あぁ、そうだった。
こいつの家も大層な金持ち。
ボンボンだったっけ…
そんな会話をしているうちに、今しがた流れていた曲が終わり
ジャズを歌っていた女性が、一礼しステージ裏へと下がっていく。
客たちはみな暖かい拍手をステージに送っていた。
それにつられ、俺と太一も手を鳴らす。
次にステージから現れた女性は
黒のロングドレスに、手にはバイオリンを抱えていた。
え…?
一礼をして、バイオリンのセットをするとピアニストとアイコンタクトを取り
次の瞬間、店中に、ピアノとバイオリンの奏でる音色が響き渡った。
「……なんで…彼女が…」
「な?ビビったろ?あの子、ここでバイトしてるんだって」
バイト?
こんな立派な店で?
開いた口がふさがらないとはこういう事かと、目の前の光景にただただ驚いていた。
「彼女のシフト、12時までだってさ」
「なんで知って……」
「俺ん家のツテ舐めんなって」
ドヤ顔でそう言うと、
じゃぁ後は頑張れよ、
そう言って太一は一人で店を出て行った。
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