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「なんですか?」
「あ…えっと」
何かと聞かれ、何も言葉が出てこない。
俺はただ、彼女との繋がりが欲しいだけなのだ。
「お、俺のこと…覚えてない?…ですか……?」
急に自信がなくなって、語尾が情けなく尻窄みになってしまった。
「…同じ大学の、美術科…
名前は…確か……結城龍也さん」
「えっ……」
まさか彼女が自分のことをここまで覚えていてくれているなんて思ってなかった俺は
彼女の顔をつい、じっと見つめてしまっていた。
「…間違ってますか?」
沈黙を破ったのは彼女
「あ、いや…
覚えてもらってるなんて思ってなかったから」
「人の名前は忘れないの」
彼女はそう言うと再び足を進め始める。
バイオリンと、
衣装で来ていたドレスだろうか、
彼女はその細い腕にたくさんの荷物を抱えていた。
「家…近いの?遅いし…危ないから送るよ」
「……結構です。」
「………………」
どうしてこんなに冷たいんだろう
俺の中に一つの疑問が生まれた。
彼女はあまり人と接触をしたくないように思えた。
学校でも、親しくしている人はいないらしいと太一も言っていたし。
やっぱり俺なんかとは、世界が違うって感じなのかなぁ……
ハッキリと彼女に断られ、何も返す言葉が見つからなかった。
「…大通りからタクシー捕まえるから」
「あ…じゃ、じゃぁ…大通りまで付き合うよ」
「……はい」
これが、
芽衣子が初めて俺の言葉に頷いた出来事だった。
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