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ようやく長い冬が終わり春を迎えたシルバスタ城下では、道端のあちこちに小さな花が咲いている。
が、二人の男達は花などには見向きもせずに歩いて行く。
一人はボサボサの長髪に不精ひげを生やし、まん丸の黒眼鏡を掛けた、見るからに胡散臭い男。
もう一人は頬に傷のある、お世辞にも人相が良いとは言えない男である。
「ちぇっ、結局おまえの一人勝ちか、まったくムカツク野郎だぜ」
頬傷の男・タマノフがぼやく。
「ふん、まぁ腕の差だな。いや、格の差と言ったほうがいいか」
まん丸眼鏡の男・マッシーがうそぶく。
「けっ、言ってろタコ」
「それよりタマノフ、なんだおまえ、その傷は?」
「ああ、これか」
タマノフはそう言うとニヤリと笑った。
「やっぱ賭場でも酒場でも顔の迫力は大事だろう?」
そう言いながら頬の傷に指を掛けると、そのままその傷を顔から引き剥がした。
「なんだ、シールか」
「ああ。だが良く出来てるだろう? シュインに作らせたのさ」
「シュインにそんなもん作らせたのか? まったくアホな野朗だ」
マッシーが軽く肩をすくめて見せる。
シュイン・シェンズリン。
シルバスタ王宮で近衛兵を務めるマッシー、タマノフ両名にとっては同僚であり、中々得がたい貴重な友人である。
中流貴族の次男坊で、剣も魔法も全くダメな役立たずだが、手先の器用さと芸術センスに関しては天才的な才能を持っている。
おまけに二人にとって都合の良いことに、このシュインという男、まるっきり世間知らずのボンボンなのだ。
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