第1章:賭場の禿鷹

11/12
前へ
/156ページ
次へ
   ――◇――◇――◇――◇――◇――      ようやく長い冬が終わり春を迎えたシルバスタ城下では、道端のあちこちに小さな花が咲いている。  が、二人の男達は花などには見向きもせずに歩いて行く。    一人はボサボサの長髪に不精ひげを生やし、まん丸の黒眼鏡を掛けた、見るからに胡散臭い男。  もう一人は頬に傷のある、お世辞にも人相が良いとは言えない男である。 「ちぇっ、結局おまえの一人勝ちか、まったくムカツク野郎だぜ」  頬傷の男・タマノフがぼやく。 「ふん、まぁ腕の差だな。いや、格の差と言ったほうがいいか」  まん丸眼鏡の男・マッシーがうそぶく。 「けっ、言ってろタコ」 「それよりタマノフ、なんだおまえ、その傷は?」 「ああ、これか」  タマノフはそう言うとニヤリと笑った。 「やっぱ賭場でも酒場でも顔の迫力は大事だろう?」  そう言いながら頬の傷に指を掛けると、そのままその傷を顔から引き剥がした。   「なんだ、シールか」 「ああ。だが良く出来てるだろう? シュインに作らせたのさ」 「シュインにそんなもん作らせたのか? まったくアホな野朗だ」  マッシーが軽く肩をすくめて見せる。  シュイン・シェンズリン。  シルバスタ王宮で近衛兵を務めるマッシー、タマノフ両名にとっては同僚であり、中々得がたい貴重な友人である。  中流貴族の次男坊で、剣も魔法も全くダメな役立たずだが、手先の器用さと芸術センスに関しては天才的な才能を持っている。  おまけに二人にとって都合の良いことに、このシュインという男、まるっきり世間知らずのボンボンなのだ。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加