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「しかしよぅ、おまえ、あの剣どっから盗んできやがったんだ? 場合によっちゃ今日から俺たちは赤の他人だぜ」
タマノフが真剣な顔で言うと、マッシーが薄笑いを浮かべながら、短剣を取り出した。
「盗んだとは何だ。失礼な野郎だな」
そう言って、マッシーが剣の柄に付いている王家の家紋の装飾を引き剥がす。
「げっ! シールかよ!?」
「うむ。シュインに作らせた。良く出来てるだろう?」
ニヤリと笑って見せるマッシーを、タマノフは呆れたように見詰めている。
王家の家紋の装飾に擬したシールを張った短剣を賭場で賭けたなんてことがバレたら、賭けた人間もシールを作った人間もタダでは済まない。
近衛兵をクビになるどころではない。間違いなく牢にブチ込まれる。
マッシーはそれくらいは百も承知でやっているのだろうが、シュインのほうは多分そこまで考えてはいないだろう。
「あきれた野郎だな……シュインに同情するぜ」
「けっ、同情なんてするこたぁ無ぇ。アイツの手抜き仕事のおかげでこっちは冷汗もんだったんだ」
「手抜き仕事?」
怪訝そうな顔でタマノフが聞く。
「そうさ。あの野郎、絶対6のゾロ目が出るサイを作れと言っておいたのに、完全な失敗作じゃねぇか」
そう言って道に唾を吐くマッシーの掌の上で、三つのサイコロが踊っている。
これにはさすがのタマノフも空いた口が塞がらない。
「じゃあおめぇ、さっきの6、6、5は……」
「まぁそういうことだ。本当なら6ゾロで楽勝だったんだがな」
「”神聖な賭場でグラサイ使うなんて許せねぇ!”っか。まったく良く言うぜ」
やれやれと言った顔で溜息をつくタマノフを尻目に、マッシーは歩を早める。
賭場で巻き上げた金で遊ぶ場所はいつも大概決まっている。
シルバスタ城下でもっとも朝の遅い通り。
通称スプリング・ストリート。
文字通り、一年中春を売っている場所である。
2章(娼館の荒獅子)に続く
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