第1章:賭場の禿鷹

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「しかしよぅ、おまえ、あの剣どっから盗んできやがったんだ? 場合によっちゃ今日から俺たちは赤の他人だぜ」  タマノフが真剣な顔で言うと、マッシーが薄笑いを浮かべながら、短剣を取り出した。   「盗んだとは何だ。失礼な野郎だな」  そう言って、マッシーが剣の柄に付いている王家の家紋の装飾を引き剥がす。 「げっ! シールかよ!?」 「うむ。シュインに作らせた。良く出来てるだろう?」  ニヤリと笑って見せるマッシーを、タマノフは呆れたように見詰めている。  王家の家紋の装飾に擬したシールを張った短剣を賭場で賭けたなんてことがバレたら、賭けた人間もシールを作った人間もタダでは済まない。  近衛兵をクビになるどころではない。間違いなく牢にブチ込まれる。  マッシーはそれくらいは百も承知でやっているのだろうが、シュインのほうは多分そこまで考えてはいないだろう。 「あきれた野郎だな……シュインに同情するぜ」 「けっ、同情なんてするこたぁ無ぇ。アイツの手抜き仕事のおかげでこっちは冷汗もんだったんだ」 「手抜き仕事?」  怪訝そうな顔でタマノフが聞く。 「そうさ。あの野郎、絶対6のゾロ目が出るサイを作れと言っておいたのに、完全な失敗作じゃねぇか」  そう言って道に唾を吐くマッシーの掌の上で、三つのサイコロが踊っている。  これにはさすがのタマノフも空いた口が塞がらない。 「じゃあおめぇ、さっきの6、6、5は……」 「まぁそういうことだ。本当なら6ゾロで楽勝だったんだがな」 「”神聖な賭場でグラサイ使うなんて許せねぇ!”っか。まったく良く言うぜ」  やれやれと言った顔で溜息をつくタマノフを尻目に、マッシーは歩を早める。  賭場で巻き上げた金で遊ぶ場所はいつも大概決まっている。  シルバスタ城下でもっとも朝の遅い通り。  通称スプリング・ストリート。  文字通り、一年中春を売っている場所である。           2章(娼館の荒獅子)に続く 
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