2章:娼館の荒獅子

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「あ、マッシーだ! 今日はどこで遊ぶの?」  一人で飲みに行くというタマノフと別れて通りを右に曲がったマッシーを、目ざとい娼婦が見つけて近寄って来た。  マッシーはそれを無視して通り過ぎようとする。  が、たちまち別の娼婦に行く手を塞がれる。 「まだ今夜の相手が決まってないならウチに寄ってきなよ。うんとサービスするからさ」  媚びるような視線を送ってくる女たちを適当に追い払いながら、スプリング・ストリートを悠然と闊歩するマッシー。  どう考えても女にモテる要素の無いこの男が、何故かこの娼館が立ち並ぶ通りでは異常に人気がある。  理由の一つは博打で勝った金をほとんど躊躇せずに女につぎ込んでしまう豪快な遊び方が娼婦たちのサイフを太らせてくれるからである。  が、この男の異常人気にはもう一つ秘密がある。  それはマッシーが魔法大国シルバスタにおいても極めて希少な桃色魔法の使い手だからである。  一般的には魔法は黒魔法と白魔法に二分される。  が、ほとんど学ぶ者が居ないゆえに無視されがちだが、実はもう一つ系統の異なる魔法が存在する。  それが桃色魔法である。  攻撃系の黒魔法、治癒・防御系の白魔法に対して、桃色魔法は夜の閨房でのみ絶大な威力を発揮する。  戦闘にも医療にも全く役立たないこの魔法を会得するために厳しい修練を行う者は実際ほとんど居ない。
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