2章:娼館の荒獅子

6/6
前へ
/156ページ
次へ
 一般的に、桃色魔法が他の系統の魔法よりもワンランク難易度が高いと言われるのは、女を責めながら、或いは男に責められながら、呪を唱えなければならないからである。  よほど強い精神力がなければ男女の交わりの最中に呪文に集中することなど出来はしない。  ましてそれが伝説の禁呪ともなれば、まず常人には不可能と言っても良い。  3歳にして自慰を覚え、5歳で童貞を捨て、その後三十年余り女とやることを全てに優先させてきたマッシーだからこそ会得できた秘術である。 「ま、マッシー、お願い……」 「ダメだダメだ。アレはイリーナちゃんとやるまでは誰にも使わねぇと決めたんだ」 「そ、そんな、ララー悲しいよぉ」  嬉しそうに腰を振りながらララーが悲しみの言葉を口にする。  マッシーの口から出た”イリーナ”という名の女はララーも知っている。  イリーナ・アル・キャステラ。シルバスタでも一、二を争う名門、キャステラ公爵家の令嬢で、今はシルバスタで唯一王位継承権を持つアルバーナ王女の侍女を務めている。  ややきつめの顔立ちだが、スウッと通った細い鼻筋と薄い唇が小作りな顔の中に絶妙な配置でおさまっていて、切れ長の瞳には気品と強さと優しさが見事なバランスで同居している。  同性のララーから見ても、思わず寒気がするほどの美貌の持ち主である。 (マッシーには無理だよ……相手にしてもらえるはずないよ……)  ララーはマッシーの腰の動きに合わせて身体をくねらせながら、口には出せない言葉を心の中で呟いた。    3章(中庭の奇行士)に続く 
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加