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「これはこれは、ご高名な賭場の禿鷹さんと勝負ができるなんて光栄ですな」
小太りが大袈裟に言ってニコリと笑う。
「ご高名? 俺はそんなに有名だったかな?」
「そうだな。禿鷹マッシーと言えば、この辺りじゃ八百屋の看板娘のミヨちゃんの次くらいには有名かもな」
タマノフが真面目な顔をしながら言う。
オナン・マスタベックと言うのが男の正式な名前だが、彼を知る者は皆、親しみと侮蔑の意味を込めてマッシーと呼ぶ。
弱者を徹底的に狙い、無一文になるまで毟り取ることから”賭場の禿鷹”の異名で恐れられている男である。
「見ねぇ顔だな、何モンだ?」
マッシーが小太りを見ながら、小声で囁くように隣のタマノフに聞いた。
「ムーランから来た商人だそうだ。最初に見せ金で金貨を100枚も見せやがった」
「ふん、カモだな」
「だが、奴さん今日はツイてるぜ。勝率はさして高くねぇが、ここっていう勝負どころじゃ必ず強い目を出しやがる」
「へぇ……」
マッシーの遮光硝子の眼鏡の奥で細い目がギラリと光った。
剣士風大男の親は一発で流され、小太りの隣に座っている長髪の親になる。
長髪は3回ほどかろうじてプラスになったものの、4回目で1、1、3の弱い目を出し、大きくマイナスして潰れた。
マッシーはここまでずっと張らずにただ場の流れを見ている。
今誰がツイていて、誰がツイてないのか。
それを見極める事が博打でもっとも重要なことだというのがこの男の持論である。
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