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置かれたのは一振りの短剣であった。
「こいつにいくらの値を付ける?」
全員の視線が床に置かれた短剣に集まる。
刃渡り20cmというところか。白銀に光る剣身にはどこか気品のようなものが漂っている。
が、剣身よりも何よりも、皆の視線が集中しているのは剣の柄に付いている装飾であった。
赤地に白い薔薇。この国の住人なら誰でも知っているシルバスタ王家の家紋である。
何故こんないかがわしい男が王家の家紋の入った剣を持っているのか?
皆呆然としながら、床に置かれた短剣とマッシーの顔を交互に見比べている。
「本来なら値段をつけるなんてバチあたりなことは出来ねぇ剣だが、今日は特別に金貨100枚分換算で勝負してやってもいいぜ」
マッシーのその言葉を聞いた瞬間、小太りの顔が一変した。
今までニコニコと作り笑いを絶やさなかった商人の顔が、いつのまにか獲物を見つけた猟師の顔になっている。
例えるならば、草食獣のフリをしていた肉食獣が、獲物を見つけて不意に牙を剥き出した。
そんな感じの変化である。
「いいでしょう。金貨100枚。その勝負受けましょう」
小太りが餓えた狼のような鋭い眼光で短剣を睨みながら言った。
(ふん、本性が出てきやがったな)
遮光硝子の眼鏡の下で、マッシーの目がスウッと細くなる。
「サシでいかせてもらっていいですかな?」
小太りがそう言いながら一同を見渡す。
皆無言で頷く。
よほど場の空気が読めない人間でない限り、王家の家紋の入った短剣と金貨100枚の勝負に銀貨をちょこちょこ張って水を差すような野暮はしない。
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