忘れられない人

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『お父さんに話したの』 壁にもたれながら朝倉が言った。 『洋子…あぁ…仕事辞めさせてくださいって言ったんだが院長が今まで通りここで働いてくれって』 『手放したくないのよ、剛志は知識があるから』 『仕事に戻るよ』 二宮は診察室に向かった。 朝倉は院長室のドアを開き中に入った。 『何だノックもしないで』 院長はソファーから立ち上がり机に行き椅子に座った。 『性別を話した?』 『いや…ただ好きな人が出来たとしか』 『恥ずかしかったのね、男が男を好きだって言うの』 『お前から聞いたときは驚いたよ、二宮君が男性を好きになったなんて』 『私だって驚いたわよ、剛志が男性を好きになって私と別れるなんて…仕事に戻るわね』 朝倉は院長室を出て行き廊下を歩いているとロビーで真宏と憐光の姿を見かけ駆け寄った。 『真宏さん』 朝倉に声をかけられ真宏と憐光は朝倉に目線を向けた。 『朝倉さん』 『どうしたんですか?』 『二宮先生にお会いしたいんですが』 『今、呼んできますから』 朝倉は二宮を呼びに診察室に向かった。 『椅子に座って待ってようか』 『そうだね』 真宏と憐光は壁の所にある長いソファーに近づき隣同士で座った。 それから5分後、朝倉は二宮を連れてロビーに現れた。 『どこかしら』 朝倉はまわりを見渡しソファーに座って話をしている真宏を見つけ二宮を連れて行った。 『真宏さん』 『二宮先生』 憐光はソファーから立ち上がった。 二宮は『お元気そうで…』と憐光に言って目線は真宏に向けた。 真宏はソファーから立ち上がり『迷惑をかけてすみませんでした』と言って二宮に頭を下げた。 『記憶は戻られたんですか』 二宮の問いに真宏は顔を上げ『完全じゃないんですけど少しずつ記憶が戻ってます…憐光のお陰です』と言って真宏は憐光に笑みを浮かべた。 『それは良かったです、少しでも記憶が戻れば…』 落ち込む二宮の姿を見て朝倉は『杉田さん、2人だけでお話があるんですが』と言って憐光の腕を掴み連れていった。 『話ってなんでしょうかね』 真宏はソファーに座った。 『……』 二宮は真宏の隣に黙ったまま座りしばらくして二宮は口を開いた。 『真宏さん』 『はい』 『あなたの担当になったその瞬間、俺はあなたのことが好きになりました、記憶が完全に戻られても言うつもりでした…真宏さんのことが好きです、俺と付き合ってください』 二宮は真宏の顔を見つめながら気持ちを伝えた。
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