忘れられない人

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母親は真宏に出るように頼んだ。 真宏は何度も鳴り続ける電話に駆け寄り受話器を取ると『もしもし斉藤ですけど』と言った。 かかってきた相手はれんの母親からだった。 『真宏君、れんが事故にあって今、病院にいるの…今、手術してるんだけど…おばさん1人でどうしていいか…』 『おばさん落ち着いて、おじさんは?』 『今、向かってるって』 『どこの病院にいるの…わかりました』 真宏は受話器を置き母親に近づくと今から病院に行くと言った。 『気を付けていきなさい、何かあったら連絡してね、お父さんには母さんから行っとくから…タクシーで行きなさい』 母親は真宏にお金を差し出した。 『ありがとう』 真宏はお金を受けとり玄関に行くとドアを開き出ていった。 真宏は近くに止まっているタクシーに乗り込んだ。 『総合病院に行ってください』 『わかりました』 運転手は車を走らせた。 ー総合病院、手術室ー れんの母親は無事に手術が成功することを椅子に座って祈っていた。 『れん…』 『母さん、れんは』 れんの父親が駆け寄ってきた。 れんの母親は椅子から立ち上がりれんの父親に抱きついた。 『大丈夫だ、れんは助かる』 『おばさん、おじさん』 真宏はれんの母親と父親に駆け寄った。 『真宏君…れんが…』 『れんは助かります』 真宏は手術が無事に終わることを祈った。 それから2時間後、手術中の明かりが消え中から先生とベットをおして看護婦たちが出てきた。 『先生、れんは…』 『全力を尽くしたんですが息子さんは…』 先生は頭を下げその場から離れた。 れんの死を両親は悲しんだ。 真宏はれんに近づき眠っている姿を見つめると看護婦たちや両親の前で別れの口づけを交わした。 ー3年後ー 大人へと成長した真宏は1人暮らしをしながら喫茶店で働いている。 『いらっしゃいませ…おばさん…』 真宏の前に現れたのはれんの母親だった。 『久しぶりね真宏君、今いいかしら?』 『今ですか…』 『俺、1人で大丈夫だから…良いよ』 『すみません、すぐ戻ります』 真宏はれんの母親と共に喫茶店を出ていき近くの珈琲専門店の喫茶店に入った。 真宏とれんの母親は向かい合って椅子に座り店員さんに珈琲とカツサンドを注文した。 『よくわかりましたね』 『お母さんに聞いたの』 れんの母親は小さな箱を真宏の前に差し出した。 『これは?』 『れんが真宏君に渡そうとしたものよ』 『俺に?』 真宏は箱を開け指輪と紙を手に取った。
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