100

3/11
319人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 そのときグラウンドの北の端を縁(ふち)どるイチョウ並木の陰から、少年がひとり姿をあらわした。白い羽織(はおり)袴(はかま)を身に着けている。額(ひたい)には「龍」の文字が描かれた鉢巻(はちまき)。東園寺崋山(かざん)だった。ふたりの前に背筋を伸ばして立つ。ジョージが声をかけた。 「おはよう、めずらしいね。東園寺くんがおつきの生徒をはべらせずに、単独行動なんて」  ふんっと鼻で笑って、カザンはいった。 「ほんとうはひとりのほうが、おれは好きなんだ。家の都合でいつもボディガードがつくのがうっとうしくて仕方ない。ある意味、おまえがうらやましいよ、タツオ。没落名家にもいい点はあるな」  いつも角のあるものいいをする嫌味な奴だった。タツオはいい返す。 「ああ自分の部屋が狭いと掃除も楽だよ。カザンのところは家政婦がいるんだろうけど」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!