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そのときグラウンドの北の端を縁(ふち)どるイチョウ並木の陰から、少年がひとり姿をあらわした。白い羽織(はおり)袴(はかま)を身に着けている。額(ひたい)には「龍」の文字が描かれた鉢巻(はちまき)。東園寺崋山(かざん)だった。ふたりの前に背筋を伸ばして立つ。ジョージが声をかけた。
「おはよう、めずらしいね。東園寺くんがおつきの生徒をはべらせずに、単独行動なんて」
ふんっと鼻で笑って、カザンはいった。
「ほんとうはひとりのほうが、おれは好きなんだ。家の都合でいつもボディガードがつくのがうっとうしくて仕方ない。ある意味、おまえがうらやましいよ、タツオ。没落名家にもいい点はあるな」
いつも角のあるものいいをする嫌味な奴だった。タツオはいい返す。
「ああ自分の部屋が狭いと掃除も楽だよ。カザンのところは家政婦がいるんだろうけど」
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